ギターの設計について

ギターの設計についてお話しします。私はただ単にギター職人になろうとはしていません。というのは、設計、調達、加工、組立、塗装、仕上げ調整、営業、経理全て実施するためです。職人と呼ばれるのは偏狭な感じがして嬉しくありません。

 

私は職人ではありませんので、木工の精密さや仕上がり精度についてはあまり重視していません。競い合うつもりもありません。また工具も高価なものは所有しておらず道具オタクでもありません。インターネットもほとんど見ません。そこで調べてみても重要なことは皆無に近く、本当に重要なことはネット上に公開されているとはとても思えません。それよりも有益な書籍を購入してその中に書いてあることを理解し応用することの方が大切なことではないかと考えます。

 

私はギター製作で最も大事にしている工程は設計です。理由は、どういうギターをどのように作り、どのように鳴らすのか、というところにあります。基本的にスペイン式の製法です。そしてダブルトップなどの新しい手法はしません。ラティスや特殊な構造もしません。そのようなことをしなくとも従来のスペイン式でギターは十分楽器として素晴らしい音で鳴るからです。また弦はカーボンなどの新しい素材に興味がありません。ナイロンで十分だと考えています。

 

それからギターのことを詳しく知るには英語やスペイン語の勉強をした方が良いと思います。それは外国の書籍に有益なものが多いからです。また書籍に書いてあることが全て正しいではなく本当にそうなのかと確認してみることも重要です。あと数学、物理、化学などの基本的な教養も身につけるべきだと思います。良いギターは知性なくして製作できないと思います。

 

私は以下の本をギター製作の参考としています。
1.Antonio de Torres Guitar maker – HIs life & works (Jose Luis Romanillos)
2.Making master guitar (Roy Courtnall)
3.スペイン式クラシックギター製作法(禰寝孝次郎著)
4.Robert Bouchet Cahier D’atelier (Robert Bouchet)
5.Jose Luis Romanillos Guitarras /Instrumentos (Josep Melo i Valls)
6.The art of Violin making (Chris Johnson & Roy courtnall)
7.Understanding wood (R.Bruce Hadley)

 

上記の書籍の中に図面などがたくさん記載されています。例えばロベールブーシェ氏の表板の構造もはっきりとわかります。私は本に記載されている図面の詳細な仕様や数値はさほど重要ではないと考えています。

 

書籍を見てその図面と少しも違わず全く同じように真似て作ってみたとしましょう。おそらく出来上がったものは全くブーシェ氏の音などしないはずです。他にトーレス、フレタ、ロマニージョス、アルカンヘルなど名だたる名器のコピーをしたところで決して彼らの音になりません。

 

仮に彼らの工房へ行き、同じ道具、同じ木材、同じ気候で作っても決して彼らの音にはならないと思います。それはなぜそのギターがそのような形状、構造になっているのか、どういう理由でそこにその部材がその形状で取り付けられているのかを理解していないからだと思います。

 

彼らは有名な製作家があんな風にしていたから私もそうしたんだ、とは決して言わないはずです。これはこういう理由でこうしたんだよと答えると思います。それはなぜかというと、彼らが作ったギターの音は明らかに彼らのオリジナルであり、いつでもどこでも条件を選ばず彼らの音が鳴るからです。そうでなければあのように優れた楽器の音にはならないと思います。

 

彼らの図面を見て、一つ一つの部品についてなぜそこにその形状のものが設置されているのかを検証しています。それは非常によく考え抜かれ、美しく鳴るための努力のあとを垣間見ることができます。なぜサントスエルナンデスやマルセルバルベロはあんな音で鳴るのかの意味や理由がようやく少しづつ見えてきたところです。

 

設計においてまず実施することは、弦の長さを決めるところから始め、ボディの形状、表板の形状、構造、裏板の構造と進めます。使用する木材の特性に合わせて少しづつ変更します。また表板の構造も木材により適正な構造に変わります。

 

最近、考察して思うことは難しい理論や計測器具などなくとも基本的になぜこうすればこうなるのかを積み重ねると音は良くなるのではないかとうことです。ただ大きいだけの音も、側鳴りも、遠鳴り、音が遠くまで飛んで行くなんて迷信は私はあまり信じません。

 

何とかという法則も数値を代入するとちっとも成立しないことがわかります。こういう場合は係数をこうして下さいと指示が記載されていますがそれはあてになりません。きちんと考察するとおかしなことだなということはいろいろあります。書籍に記載されているから、人がこれはこの法則で成立するといっても信用しない方が良い場合もあります。

 

最終的にボディサイズ、部材の形状、設置位置などが決定し、図面が出来上がります。
あとは加工、組立ですが、ほとんどが材料の選定と設計の段階で音が決まります。木工作業の良し悪しは本来なるはずの音がなるかならないかだけのことだと思います。木工作業により音が良くなるということはありません。もちろんギターのこの部分はこういう風に組み立てるとこういう鳴り方がするというのはありますが、それは別の機会にお話しします。

 

2024.4.27

 

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