今回はブリッジの話をします。
ギターの弦はナットとサドルで支えられており、サドルはブリッジに装着され、そのブリッジは表板上に接着されています。非常に重要な部品です。
弦の振動を確実に表板に伝え、ギターの中で振動が循環する機能を持たせるためにいろいろなことに注意しなければなりません。これがダメならほとんど弦楽器の機能を有していないとも言えます。
よくサドル交換で音が激変したという話を耳にしますが、それはサドルの底面がブリッジ上に正確に設置されてなかったために、もともと出るはずの音が出ていなかっただけで音の表面上の変化に過ぎません。もっと掘り下げて音の本質に近づく必要があります。
まずはじめにブリッジの底面が完全に表板に密着せねばなりません。これがブリッジの接着で一番重要なことです。確認するためにたばこの巻紙を使用します。厚さは平均で2/100ミリです。これぐらいの精度で木工は十分です。湿度や温度でブリッジが変形するのでこれ以上してもあまり意味がありません。
これも朝に合わせて、夕方接着しようとすると温度や湿度の環境変化で合わなくなっていることがほとんどです。合わせたらすぐに接着するか、接着の直前にもう一度見直す必要があります。
二つのギターを8回ほど接着したものを脱着したことがありますが接着の具合により音質が変化することは確かです。また接着の度合いによっても音質が変化します。接着の具合が弱いとサスティーンがなくなり、音の腰が抜けます。当たり前のことですが・・・
次に接着の方法です。今までクランプ4個で上下から挟んで接着していましたが、これは4点の点接着になり着きの良い部分、良くない部分が交互になり全体がうまく接着出来ていなかったので、方法を変えました。
現時点でロベールブーシェ氏のブリッジ接着方法がブリッジ接着に最良ではないかと考えています。ギターの中からブリッジ底面全体に支えを設置し、ブリッジ上面からも全体を均一に押さえて、クランプの4点の点接着からブリッジ全体面が平均して接着可能にしています。
接着材には膠を使います。膠は接着剤として使用するにあたり、接着面が完全に接触していることが前提条件として必要で、そのことが音の伝達をすでに良くしており、さらに木材の接着面両側に膠が浸透して固まることがさらに音質をよくしていると考えています。私はギターのほとんどの部分を膠で接着しています。
膠での接着時には膠の粘度、周囲の湿度にも注意が必要です。ブリッジはギターの中でも最も力がかかる部分で、膠も最強の接着状態にする必要がありますので粘度はギターの他の部分より高い設定です。また湿度も相対湿度で室内が35〜50%の範囲にします。
6月になると相対湿度は通常室温では60%程度になり、これでは接着できないので除湿機の運用と白熱電灯2個を使って35〜40%台にしています。室内はとても暑いですが、人よりもギター優先の環境になっています。余談ですがダイエットになり健康にも良いようです。
一番良いのはエアコンで絶対湿度を変化させることが出来れば人に優しい室温で湿度も40%程度となればありがたいのですが、絶対湿度を変える(露点を下げる)のはなかなか大変です。またエアコンを運転しながら膠接着は不可です。冷気の通風は塗布した膠をたちまち乾燥させて接着時間がただでさえ短いのにさらに短くなります。扇風機も不可です。バイオリンの製作教本の中には膠接着時は”No draft”と説明されています。
他には弦穴ですがダブルホールにしています。一つ穴の場合、折り返して縛った弦がサドルから降りてきた弦を持ち上げ、サドルから弦穴間のブレーキアングルがなくなることから、これを防止するために基本的にいつもダブルホールにしています。
治具の木材は、吉野檜で奈良県の大淀町にある美吉野キッチンさんで購入したもので、非常に高品質でありながらも安価である優れたものです。
これからも音質に関して良い方法があればどんどん変化していくと思います。良い音の追求のために立ち止まることはありません。 2024.06.15