私はギターやウクレレには十分に長期間保管された木材を使用します。少なくとも20年以上経過したものです。
古い木材を使用する理由は、変形、割れが発生しにくいことにあります。伐採から間もない新材をすぐに使用すると、含有水分が多く、乾燥していく過程ですぐに変形、割れが発生しますので、製作に使用しません。
次に音質について、長期にわたり保管(エージング)された木材=良い音と思われがちですが、それは違うと考えます。古い木材ならなんでも良い音がするわけでもなく、新しいうちから良い音のする木材でないと古くなっても良い音はしません。音質の優れていない木材が長期にわたるエージングで劇的に良くなることはまずありません。
例えは50年間保管した材料で製作した楽器が、製作直後からいきなり50年経過したビンテージサウンドを奏でることもありません。間違いなく新品の楽器の音がします。俗に言うビンテージサウンドは、製造から長期に渡り弾き込まれることで得られるようです。
楽器製作後は、休まず演奏することが大切です。楽器メーカーで製造後に音楽が鳴っている倉庫に保管されているのを見たことがありますが、大量の楽器を演奏するのは大変なので、音楽を聴かせて楽器本体を振動させるのは良い方法の一つだと思います。
製造工程においても、手作業で丁寧に作り込まれた楽器は良い音がします。それは道工具が直接木材に、振動、音を加える時間が長くなることに関係があると考えています、これはあくまで私の経験値でしかありませんが、そういう傾向があることは確かだと思っています。
また製作してからかなり時間を経た楽器でも、演奏されていなければ新しい楽器の音がします。
しかしバイオリンの名工で名高いストラディバリは、伐採から5年ほどの新しい材料で製作していたそうです。真偽のほどはわかりませんが、注文があまりに多いと楽器に使用するエージング済みの材料などいくらあっても足りなかったことが容易に想像できます。
そこで材料に何かしらの手法を加えることで、わずか5年で立派に鳴り、変形、割れがない楽器が出来たのだろうと思います。
ストラディバリの製造技術、塗装方法などは解明済みのことがほとんどで、わかっていないのがこの材料だけです。これがわかれば楽器製造技術もおそらく飛躍的に前進すると私は思います。
おそらく当時のクレモナで誰もが入手可能なものを木材に塗布しており、ストラディバリだけではなく、他のバイオリン製造者も同様のことをしていたと思われます。これについては既にクロマトグラフにかけれらて物質の組成は判明しています。
そこで私は新材を伐採から短期間で良い音が鳴りかつ、変形、割れが発生しないようにする手法を研究、実験しています。これについては、短期間で木材の細胞単位(セルロース)での組成の変化を起こすことに注目しています。
完成したら研究データとともに発表したいと考えています。 2023.08.25