膠について

ギターの製作には接着剤が欠かせません。接着剤には、木工ボンド、エポキシ系接着剤、膠があります。私は主に音響に直接影響がある部分は、接着剤は膠を使用しています。用途に応じて木工ボンド、エポキシ系接着剤も使う場合があります。木工ボンドには、タイトボンドを使います。エポキシ系接着剤と膠については、何を使っているかは内緒です。

 

接着剤の中でも特に膠については議論がいろいろあるところです。楽器の製作家の皆さんはすでにこれだというとっておきの膠をお持ちです。音響はもちろんのことですが、やはり接着強度が重要です。膠で接着したブリッジや、表板のブレーシングが外れたとなれば一大事、大恥をかいたうえに工房の存続問題になりかねません。

 

その膠について、詳細を話していきます。膠の主成分はコラーゲン、ゼラチンといったタンパク質です。弱点としては、1.木工精度が低く隙間が大き過ぎると接着出来ない。接着する部分の木材を合わせた時に隙間なく仕上がっている必要がある。2.高温多湿の環境下で、接着した部分が外れる。3.上手く接着できないと全く強度がなくすぐに接着した部分が外れる。(最悪の場合ブリッジが飛ぶなど)4.溶解時に温度を上げすぎると炭素分子の架橋が弱くなり先の2.項が発生します。一般にその温度は70℃以上で、接着作業中は60℃くらいを維持する必要があります。5.粘度が高すぎても低すぎても上手く接着できない。

 

利点は、次の通りです。1.上手く接着できれば機械的強度は高い、2.音響的に優れている。

 

要は、膠を楽器の接着に使用してもそれを扱う実力がなければリスクが多いだけです。一言で膠と言ってもいろいろと種類や用途があります。

 

絵画用として、仕上がった絵の具の表面の定着に使用するものがあります。これは接着が目的ではありませんので、全く機械的強度はなく楽器には使えません。

 

次に楽器用の膠ですが、バイオリン用とギター用があり異なります。ギターはバイオリンよりも楽器が大きく弦の張力による負荷が大きいため、機械的接着強度が高くないと使えません。特にブリッジにバイオリン用の膠を使うと外れます。バイオリンはすぐに分解、組み立てが必要なために作業性が良くかつ音響に優れた膠を使っていると聞いています。ギター用とは少し違うようです。

 

そうなると膠であればなんでも良いわけではなく、ギター用に適したものを探さねななりません。なかなかこれがそう簡単には見つかりません。私のギター製作の師匠である丸山先生に教えて頂いた実績のあるフランス製はなかなか入手できず、ドイツの楽器屋さんから購入した膠はバイオリン用で強度が不足していたりで、膠探しの旅をせねばなりませんでした。

 

私は旅が好きではなく、自分探しの旅なんて考えたことすらありません。しかしそうも言ってられません。良い膠が見つからない限り、私のギター製作は存続問題に発展するからです。

 

テストのために入手した膠は10種類と少しです。最強、最良なのは、いつもギター用木材を譲っていただいている横浜の製作家の先生の持っている膠です。これをテストサンプルとして頂いており、基準として、粘り具合、接着後の機械的強度、完成後の音響の良し悪しを比較しながら確認しています。

 

幸いなことに2ヶ月ほどでテスト、調査が完了し、ギター製作用に良い膠が見つかりました。そして、効果のある粘度、母材の温度、通風のあるなしなどによりどのような結果になるかも確認しています。(あまり書いている中味がないままテストしていると言っても信憑性がないので、簡単に言うと溶解時の表面張力と粘度の関係を調査しています。)

 

以上のような調査、テストを経て現在に至っております。私のところで実施する膠での接着は、十分に機械的強度があり、その結果音の伝達性にも優れ、安心して末長く使用出来る楽器となっております。   2023.06.28

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