ひそみに倣う

ヘリンボーンのインレイをヘッドストック用に作りました。17°で幅が2ミリです。私はインレイやロゼッタ作りなどのデザインに関する作業が好きです。

 

よくバインディング、インレイ、ロゼッタ作りはギター製作の本質と関係ないと言われることがあります。どうやら木工作業の精度や音響に関してに重きが置かれているようです。しかし私はそれだけではない思っています。木工、音響作りは基本、土台であり、その土台の上にデザインであるインレイ、ロゼッタ、バインディング作りがあり、最後に塗装作業となります。どれもが重要な作業であり、すべての作業において私は手を抜くことはありません。これらの作業がすべてうまく関わり合い、全体が一つにうまく仕上がってこそ良いギターではないかと思います。

 

例えば「人間は中身で勝負だ」とばかりにギター片手に普段着で、ボサボサ頭で、格好を気にせず二日酔いでステージに上がったとしましょう。いかに本質である演奏が優れていてもあまり歓迎されないと思いますし、またそのような方を見かけたこともありません。カルロスクライバーや、ビルエバンスくらいになれば話は別なのかもしれませんが・・・ギターも同じだと思います。ギターは「音で勝負だ」とばかりに、木工と音響だけに特化し、はげた塗装、傷だらけ、曲がっている、汚れている、風変わり過ぎで個性的なもの、それでは誰も見向きしないと思います。

 

ギターのデザインはたくさん星の数ほどあり、よく有名なギターのデザインを観ています。またギター以外にも洋画、日本画、彫刻、南宋の官窯の青磁をよく観ています。これはどうのようにして出来ているのだろう、この色は顔料はなんだろう、これは人間には製作不可能だ、この艶はどのようにすれば出るのだろう・・・楽し過ぎてすぐに時間が経ってしまいます。

 

この写真のヘリンボーンですが、作り始めた頃はなかなかうまく出来ず、6回目にしてようやく出来ました。失敗を何度も重ねてやっと陽の目を見ましたが、製作時、以前同じ職場にいた神様と呼ばれる人のことを思い出しました。その方は非常に頭の切れる方で、周囲の人に神様とか大明神と呼ばれていました。普段はぼそぼそお話しするので何を話しているのか、ほとんどよくわかりません。しかし、話をよく聴いてみたり、書いてあるものを拝見したら、すごく頭脳明晰な方であることがよくわかりました。

 

ある日神様は私に言いました。「中並君、人間はなぜ失敗するか、わかるか?」私は「事情により、人によりいろいろあるのじゃないのですか」と答えました。しかし、やはり神様は一味違いました。「人が失敗する原因は、二つしかない。それは方法や計算を間違えているか、知らないかの、このどちらかに要約される」とおっしゃいました。私はなるほど確かに明快な分かりやすい答えだなと思い、この方が人に神様と呼ばれる理由がよくわかりました。

 

今でもこのことをよく覚えており、失敗するたびに、「方法は正しかったか」、「計算は間違えていないか」、「手持ちの情報の正誤、まだ知らなかった項目はないか」「条件の設定は正しく行われたか」ということを考えるようにしています。これを繰り返すとほとんどの問題は解決するので、神様に感謝しています。おかげさまでこのヘリンボーンも完成しました。この場合は「知らなかった」につきます。

 

どのようにすれば神様みたいになれるのか知りたかったので、聞いてみたことがあります。神様はまた簡単に一言で答えてくれました。「本をよく読むこと」。本ほど楽しく、人生を豊かにするものは他にないとのことでした。確かにそうだなと思い、これに倣い、たくさんは購入できませんが、これは必要な本であると判断した時は、いくら高くても迷わず買うことにしています。

 

話があちこちに拡散しそうなので、元のデザインの話に戻ります。古今東西、著名製作家の優れたインレイやロゼッタがあり真似をして、自分のギターに取り入れたいところですが、これもまた「ひそみに倣う」ということにもなりかねませんので、ものまねもほどほどに自分が作ったものでやって行きたいと思います。私のデザインを見て「ああ、これはあの人が作ったものだ。これは人間の技じゃないね」といつか言われるようになりたいものです。

 

失敗しても懲りずに問題点を把握し、継続して努力を積み重ねると、物事は必ず完成するものだと考えています。

   2023.06.30

 

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